プレスリリース・論文掲載情報

2022/10/21

 

 当研究室では1970年代から長年にわたり、牛伝染性リンパ腫(旧名:牛白血病)の研究に取り組んでいます。現在は、今内 覚 教授、岡川 朋弘 特任助教が中心となり、国立感染症研究所、株式会社ファスマック、北海道大学人獣共通感染症国際共同研究所、岩手大学農学部と、牛伝染性リンパ腫の発症機序および発症予測法に関する共同研究を実施しています。

 この共同研究の成果について、2022年10月13日公開のMicrobiology Spectrum誌に論文が掲載され、本日北大広報を通じてプレスリリースがありました。

 

【プレスリリース】

牛のリンパ腫発症を予測するがん検診技術を開発 ~発症予測法の実用化による畜産被害の軽減に期待~

 

   プレスリリース全文(PDF)

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【プレスリリース図表 図1~6】

 ※図(画像)をクリックすると、拡大して表示されます。

 

      

 

 【プレスリリースの概要】

 牛伝染性リンパ腫ウイルス(BLV、旧名: 牛白血病ウイルス)は日本をはじめとして世界中の農場で蔓延しており、BLVの感染を原因とする地方病型の牛伝染性リンパ腫(EBL、旧名: 地方病性牛白血病)の発生も急増しています(図2)。EBL発症牛は淘汰の対象となり、牛乳や食肉の生産ができずに全廃棄となります。EBLは発症までに3年以上かかるため、全廃棄になると牛の売却利益が失われるだけでなく、それまでに要した膨大な経費や時間が無駄になります。しかし、EBLの発症機序は未だに不明な点も多く、発症を予測する方法も存在しません。

 

 そこで本研究では、EBLの発症予測法の開発と実用化を目標に、プロウイルス挿入部位の網羅的増幅法(RAISING、ライジング)を用いて、BLV感染細胞のクローナリティ解析を実施しました(図1、図3)。さらに、独自の解析ソフト(CLOVA)を用いてクローナリティの程度を正確に数値化しました(図1)。その結果、EBL発症牛は未発症キャリアと比べてクローナリティ値(Cv)が高く、CvはEBLの高精度な診断マーカーになることがわかりました(図4)。さらに、BLV感染羊モデルの解析では、Cvがリンパ腫を発症する前に上昇し、発症予測マーカーになることも明らかにしました(図5)。

 

 本研究により、BLV-RAISING法によるクローナリティ解析はEBLの診断法ならびに発症予測法として有用であると示されました。現在我々は、クローナリティ解析キットの市販化を目指し、研究コンソーシアムを形成してさらに研究開発を進めています。また、本技術を用いた「牛のがん検診」の実用化を目指し、国内の大学や各検査所、臨床獣医師、農家とのネットワークを駆使して、本診断法の大規模な実証研究を進めています。今後、「ウシのがん検診」の実用化により、畜産被害の軽減や生産性の向上に貢献すると期待されます(図6)。


【お問合せ先】

 本プレスリリースに関する内容は、こちらにお問い合わせください。

  北海道大学大学院獣医学研究院 病原制御学分野・先端創薬分野

  教授 今内 覚(こんない さとる)

   TEL:011-706-5216

   メール:konnai@vetmed.hokudai.ac.jp

 

【研究成果に関する原著論文】

 本研究成果は、2022年10月13日(木)公開のMicrobiology Spectrum誌に掲載されました。

 

  Okagawa T, Shimakura H, Konnai S, Saito M, Matsudaira T, Nao N, Yamada S, Murakami K, Maekawa N, Murata S, Ohashi K.

  Diagnosis and Early Prediction of Lymphoma Using High-Throughput Clonality Analysis of Bovine Leukemia Virus-Infected Cells. 

  Microbiology Spectrum, 10(6):e0259522, 2022

 

  https://doi.org/10.1128/spectrum.02595-22(オープンアクセス)

 

 【謝辞】

 なお本研究は、公益財団法人伊藤記念財団 大型研究プロジェクト事業、文部科学省 科学研究費助成事業、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター・イノベーション創出強化研究推進事業、ならびに革新的技術開発・緊急展開事業(うち地域戦略プロジェクト)、農林水産省・安全な畜産水産物安定供給のための包括的レギュラトリーサイエンス研究推進委託事業、および北海道大学大学院獣医学研究院臨床研究推進研究費の支援の下で行われました。


【プレスリリース図表】

【図1】BLV-RAISING法を用いたBLV感染細胞のクローナリティ解析

 

 

【図2】日本国内における牛伝染性リンパ腫の発生状況

 

 

【図3】BLV-RAISING法によるプロウイルス挿入部位の網羅的増幅の概要

 

 

 

【図4】BLV感染牛のクローナリティ解析によるEBL診断の有用性の検証

 

 

【図5】BLV感染羊モデルにおけるリンパ腫発症予測の実証

 

 

【図6】将来の展望

 

 


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