プレスリリース・論文掲載情報
2023/3/16
当研究室ではウシやイヌなど様々な動物種を対象として、免疫チェックポイント分子に関する研究に取り組んでいます。当研究室の今内 覚 教授、岡川 朋弘 特任助教が中心となり、北海道大学ワクチン研究開発拠点、北海道大学人獣共通感染症国際共同研究所、東北大学大学院医学系研究科、雪印種苗株式会社との共同研究を通じて、免疫チェックポイント阻害剤が牛のワクチンに対する免疫応答を増強することを解明しました。
この共同研究の成果について、2023年3月1日公開のVaccines誌に論文が掲載され、本日北大広報を通じてプレスリリースがありました。
【プレスリリース】
PD-L1の阻害により既存のワクチン効果を増強 ~子牛のワクチンプログラムへの応用に期待~
【プレスリリースの概要】
ワクチンは疾病の予防と集団感染の拡大防止の観点から、感染症対策において必要不可欠です。獣医療においても様々な動物用ワクチンが使用されています。ウシなどの産業動物は集団で飼育されることが多く、特に子牛は免疫系が未熟で肺炎などの感染症に罹患しやすいため、ワクチン接種による集団感染の予防が非常に重要です。しかし、既存のワクチンでは子牛の感染症を防御できない場合もあり、ワクチンが効かない理由の解明やワクチンの改良が求められています。本研究では、免疫チェックポイント分子PD-1/PD-L1に着目し、ワクチン接種後の子牛におけるPD-1の発現動態と、ワクチンに対する免疫応答に及ぼす影響を検証しました。子牛に市販の弱毒生ワクチンを2回接種すると、免疫応答に重要なT細胞においてPD-1の発現が上昇しており、免疫応答が抑制されていることが示唆されました。さらに、PD-1/PD-L1経路を阻害する抗PD-L1抗体をワクチンと同時に接種すると、PD-1/PD-L1を介した抑制シグナルが解除され、ワクチンに対するT細胞の応答やサイトカインの分泌が増強されました。以上の結果より、PD-L1の阻害によって子牛のワクチンに対するT細胞応答が増強されることが明らかになりました。
今後は、免疫チェックポイント阻害剤を用いた免疫応答の増強によって、ワクチンのウイルス防御効果が向上するかを検証する予定です。本研究の知見を基盤としてワクチンプログラムの改良を進めることにより、ウシの生産性向上に貢献することが期待されます。
【研究成果に関する原著論文】
本研究成果は、2023年3月1日(水)公開のVaccines誌に掲載されました。
Okagawa T, Konnai S, Nakamura H, Ganbaatar O, Sajiki Y, Watari K, Noda H, Honma M, Kato Y, Suzuki Y, Maekawa N, Murata S, Ohashi K.
Enhancement of Vaccine-Induced T-Cell Responses by PD-L1 Blockade in Calves.
Vaccines, 11(3), 5592022 (2023).
https://doi.org/10.3390/vaccines11030559(オープンアクセス)
【謝辞】
なお本研究は、公益財団法人伊藤記念財団 大型研究プロジェクト事業、文部科学省 科学研究費助成事業、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター・イノベーション創出強化研究推進事業、ならびに革新的技術開発・緊急展開事業(うち地域戦略プロジェクト)、農林水産省・安全な畜産水産物安定供給のための包括的レギュラトリーサイエンス研究推進委託事業、および北海道大学大学院獣医学研究院臨床研究推進研究費の支援の下で行われました。
【プレスリリース図表】
【図1】子牛におけるワクチンと抗PD-L1抗体の併用投与試験の概要
【図2】PD-L1阻害によるワクチンに対するT細胞贈答の増強(解析結果)
過去のプレスリリース・ニュース
2022年12月22日
Predicting the onset of bovine lymphoma ― Development of cancer screening technology
2022年10月21日
牛のリンパ腫発症を予測するがん検診技術を開発 ~発症予測法の実用化による畜産被害の軽減に期待~
2022年3月10日
母牛はわが身を削って子牛を出産する ~牛伝染性リンパ腫と分娩との関係,周産期 に疾病が多発するメカニズムの一端を証明~
2021年6月23日
北大定例記者会見にて発表「北海道大学動物医療センターにおけるイヌ免疫チェックポイント阻害剤の臨床研究」
2021年4月22日
New therapy target for malignant melanomas in dogs
2021年4月2日
Probiotics keep calves healthy, too!
2021年2月15日
続報・肺転移のあるイヌ悪性黒色腫に抗PD-L1抗体が有効であることをはじめて実証 ~イヌ用免疫チェックポイント阻害薬の実現に大きく前進~
2021年1月28日
Deeper insight into how tick spit suppresses cattle immunity
2021年1月18日
プロバイオティクスで子牛を下痢から守る~発酵哺乳飼料による子牛の腸炎防御効果を証明~
2021年1月14日
マダニ唾液が免疫チェックポイント因子の発現を誘導~マダニ媒介性病原体の伝播機序の解明に期待~
2020年12月22日
プロスタグランジンE2を介した免疫チェックポイント阻害薬の新たな耐性獲得機構の解明~新たな免疫療法への応用に期待~
2020年10月23日
生研支援センター 研究紹介「動物用バイオ医薬品実用化を可能とする大量生成技術の構築」
2020年3月16日
科研費 研究成果トピックス「動物の難病(がん・感染症)に対する創薬研究」
2019年12月25日
2019年農業技術10大ニュース選出「牛白血病の新たな制御方法、抗ウイルス効果の確認に成功-牛の難治性疾病に対する応用に期待-」
2019年8月7日
ウシの疾病に有効となる抗ウイルス効果の確認に成功~牛白血病などの新規制御法への応用に期待~
The drug combination effective against bovine leukemia
2018年4月2日
ヨーネ病の病態発生メカニズムを解明 ~家畜法定伝染病ヨーネ病に対する制御法への応用に期待~
Unraveling the immunopathogenesis of Johne’s disease
2017年8月25日
イヌのがん治療に有効な免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-L1 抗体)の開発にはじめて成功~北海道大学動物医療センターにおける臨床研究成果~
New therapeutic antibody for dog cancers
2017年6月7日
牛難治性疾病の制御に応用できる免疫チェックポイント阻害薬 (抗 PD-1 抗体)を,抗 PD-L1 抗体薬に続き開発
Overcoming immune suppression to fight against bovine leukemia
2017年4月27日