プレスリリース・論文掲載情報

2025/5/20

 

 現在、当教室では前川 直也 特任助教、今内 覚 教授が中心となって、イヌの悪性腫瘍に対する免疫チェックポイント阻害薬の研究開発を進めています。免疫チェックポイント分子(免疫抑制分子)の一つである CTLA-4 を阻害する抗体薬を開発 し、北海道大学動物医療センターにおける臨床研究を行い、 進行したイヌの悪性腫瘍に対して抗腫瘍 効果が得られることを世界で初めて報告しました。

 本日、本研究の成果について、Frontiers in Immunology誌に論文が掲載され、北大広報を通じてプレスリリースがありました。

 

【プレスリリース】

イヌのがんに抗CTLA-4抗体治療が有効であることを初めて報告~イヌのがんへの免疫療法の適用拡大に期待~

 

   プレスリリース全文(PDF)

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【プレスリリースの概要】

 北海道大学大学院獣医学研究院の前川直也特任助教及び今内 覚教授、 大阪公立大学大学院工学研究科の中西 猛准教授及び立花太郎教授、東北大学大学院医学系研究科の加藤幸成教授らの研究グループは、免疫チェックポイント分子(免疫抑制分子)の一つである CTLA-4 を阻害する抗体薬を開発し、北海道大学動物医療センターにおける臨床研究を行い、 進行したイヌの悪性腫瘍に対して抗腫瘍効果が得られることを世界で初めて報告しました。

 イヌのがん(悪性腫瘍)は外科切除、放射線療法、化学療法(抗がん剤治療)によって治療されることが一般的ですが、これらの治療では完治に至らないケースも多く、免疫療法などの新しい治療法の確立が急務です。研究グループではこれまでに、別の免疫チェックポイント分子である PD-L1 に対する 阻害抗体(抗 PD-L1 抗体)をイヌのがん治療に応用し、一部のイヌで腫瘍の退縮をもたらすことを世界に先駆けて報告してきました。一方で、抗 PD-L1 抗体治療単独での効果は限定的であり、治療効果を高めるための併用療法の開発が求められています。

 そこで本研究では、抗 PD-L1 抗体治療に併用する免疫療法薬として、イヌ CTLA-4 に対する阻害抗体(抗 CTLA-4 抗体)を新たに開発しました。その安全性と有効性を調べるために、北海道大学動物医療センターに来院した悪性腫瘍のイヌ 12 頭に対して、抗 PD-L1 抗体との併用として抗 CTLA-4抗体を投与する臨床研究を行いました。なお、治療を受けた 12 頭はすべて抗 PD-L1 抗体単独治療をすでに受け、腫瘍の進行が認められたイヌでした。 併用治療を受けたイヌのうち、一部では治療に関連した有害事象が認められましたが、 悪性腫瘍に対する治療薬として許容可能な範囲と考えられました。 また、 抗腫瘍効果の評価が可能だった 6 頭のうち、 1 頭で腫瘍の退縮が認められました。

 本研究成果は、抗 PD-L1 抗体単独治療に耐性となったイヌにおいても 、 抗 CTLA-4 抗体との併用治療によ る免疫療法が有効となる可能性を示しており、イヌ腫瘍に対する 新たな免疫療法の実現につながる重要な知見となります。

 

【研究成果に関する原著論文】

  本研究成果は、2025年5月20日公開のFrontiers in Immunology誌にオンライン掲載されました。

 

  Maekawa N, Konnai S, Watari K, Takeuchi H, Nakanishi T, Tachibana T, Hosoya K, Kim S, Kinoshita R, Owaki R,Yokokawa M,

   Kagawa Y, Takagi S, Deguchi T, Ohta H, Kato Y, Yamamoto S, Yamamoto K, Suzuki Y, Okagawa T, Murata S, Ohashi K

 

  Development of caninized anti-CTLA-4 antibody as salvage combination therapy for anti-PD-L1 refractory tumors in dogs

  (抗 PD-L1 療法に耐性となったイヌ腫瘍における救援併 用療法としてのイヌ化抗 CTLA-4 抗体の開発)

 

  Front. Immunol., 2025, 16: 1570717

  https://doi.org/10.3389/fimmu.2025.1570717(オープンアクセス)

 

 

【プレスリリース図表】

【図1】免疫チェックポイント分子による腫瘍の免疫抑制メカニズムとその阻害剤による治療

 

【図2】抗 CTLA-4 抗体と抗 PD-L1 抗体の併用治療における腫瘍退縮効果

 

【関連する過去のプレスリリース】

プレスリリース(1) 2017 年 8 月 25 日

イヌのがん治療に有効な免疫チェックポイント阻害薬(抗 PD-L1 抗体)の開発にはじめて成功~北海道大学動物医療センターにおける臨床研究成果~

https://lab-inf.vetmed.hokudai.ac.jp/content/files/Research/2017.8.25_jyu.pdf

 

プレスリリース(2) 2021 年 2 月 15 日

続報・肺転移のあるイヌ悪性黒色腫に抗 PD-L1 抗体が有効であることをはじめて実証~イヌ用免疫チェックポイント阻害薬の実現に大きく前進~

https://www.hokudai.ac.jp/news/pdf/210215_pr.pdf

 

プレスリリース(3) 2023 年 6 月 2 日

イヌ悪性黒色腫に対して放射線治療との併用で抗 PD-L1 抗体の効果が高まることをはじめて報告

~イヌ用免疫チェックポイント阻害薬のより良い使用法の実現に期待~

https://www.hokudai.ac.jp/news/pdf/230602_pr.pdf

 

プレスリリース(4) 2023 年 10 月 5 日

イヌの鼻腔内腺癌や骨肉腫に免疫チェックポイント阻害剤が有効であることを初めて報告~イヌ用抗PD-L1 抗体による免疫療法の適用拡大に期待~

https://www.hokudai.ac.jp/news/pdf/231005_pr.pdf

 


過去のプレスリリース・ニュース

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イヌの鼻腔内腺癌や骨肉腫に免疫チェックポイント阻害剤が有効であることを初めて報告  ~イヌ用抗PD-L1抗体による免疫療法の適用拡大に期待~

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2023年6月2日

イヌ悪性黒色腫に対して放射線治療との併用で抗PD-L1抗体の効果が高まることをはじめて報告 ~イヌ用免疫チェックポイント阻害薬のより良い使用法の実現に期待~

2023年3月16日

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2021年2月15日

続報・肺転移のあるイヌ悪性黒色腫に抗PD-L1抗体が有効であることをはじめて実証 ~イヌ用免疫チェックポイント阻害薬の実現に大きく前進~

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