牛白血病の研究

 

 牛白血病ウイルス(bovine leukemia virus; BLV)は、牛のリンパ球(B細胞)に感染し、1~5%の感染牛で地方病性白血病を引き起こすウイルスです。日本における牛白血病の発生は年々増加傾向にあり、2009~2011年に行われた全国調査によると、乳牛の40%、肉用牛の28%がBLVに感染していると言われています。このように、BLVは日本国内の農場に広く蔓延しており、その対策は急務です。

 本研究室では1970年代から牛白血病の研究に取り組んできました。例えば、BLVの疫学調査や牛白血病発症検体の解析、腫瘍関連抗原の探索、病態進行機序や抗ウイルス免疫応答の解析、あるいはワクチンの試作といった幅広いテーマで研究を進めてきました。そして現在は、長年積み上げてきた知見をもとにして、牛白血病に対する効果的な予防・治療法を確立することを最終的な目標に定め、3つのアプローチで研究を進めています。

 

(1) BLV感染症の免疫学的解析に基づく新規治療法の開発

 BLV感染牛では病態進行に伴い、ウイルス感染細胞の排除を担うべきT細胞が疲弊化(機能低下)することが知られています。最近の研究で私たちは、BLV感染牛では免疫チェックポイント分子(PD-1/PD-L1など)の発現上昇や制御性T細胞の活性化によって、T細胞のエフェクター機能が低下することを明らかにしました。そこで現在は、BLV感染牛において免疫チェックポイントやその他の免疫抑制因子に対する阻害薬の臨床試験を実施し、免疫活性化効果や抗ウイルス効果を検証しています。

 

(2) 牛白血病発症牛の表現型解析に基づく腫瘍化機序の解明

 牛白血病はBLV感染に起因して成牛に好発する地方病性牛白血病(enzootic bovine leukemia; EBL)と、非ウイルス性で2歳以下の子牛に好発する散発性牛白血病(sporadic bovine leukemia; SBL)に大別されます。しかし近年、2歳未満の子牛でもEBLを疑う臨床症例が報告されています。そこで私たちは、日本国内の牛白血病発症牛を対象として腫瘍細胞の表現型解析とウイルスの定量的解析を行い、実際に2歳未満の子牛でもEBLが散見されることを明らかにしました。さらに現在はこの内容を発展させ、若齢牛におけるEBL発症機序の解明に取り組んでいます。

 

(3) BLV感染伝播リスク解析に基づく牛白血病清浄化ガイドラインの構築

 本研究室では、年間約3,000~4,000検体のBLV感染診断を実施しています。診断結果は農場における新規導入牛の決定、着地検査、感染牛の分離飼育、優先淘汰および感染牛産子の早期感染診断などに活用されています。さらには、複数のモデル農場および農業共済組合や開業獣医師と協力して、牛白血病清浄化に向けた対策法を検証しています。すなわち、ウイルスの伝播経路(水平感染および垂直感染)を考慮した衛生管理手法や分離飼育、ウイルス定量検査による感染伝播ハイリスク牛の摘発、あるいはウイルス量および生産性・繁殖率を考慮した感染牛の淘汰をモデル農場に提案しています。