マレック病の研究

  マレック病は、ヘルペスウイルス科のマレック病ウイルス(MDV)の感染により、鶏に腫瘍(悪性リンパ腫)を引き起こす疾病です。MDVは経気道感染により鶏に感染し、急性感染期を経た後、標的細胞であるT細胞に潜伏感染を確立します。この潜伏感染期に一部の感染細胞が腫瘍化することで、やがて悪性リンパ腫の発生へと至ります。マレック病は、以前は養鶏産業に甚大な被害をもたらしました。しかし、弱毒生ワクチンが開発・実用化され、マレック病の発生数は激減し、現在では効果的に制御されています。このマレック病の発症予防に使用されるワクチンは、数少ない抗腫瘍ワクチンのモデルとして、医学・獣医学分野をとおして古くより注目されてきました。

 私たちのマレック病に関する研究は1970年代にスタートし、これまでに行ってきた研究は多岐にわたります。例えば、マレック病由来細胞株を用いた腫瘍関連抗原の検索や、腫瘍発生メカニズム、病原性を持つMDVとワクチン株の違い、ワクチンの作用機序、あるいは病態形成時に認められる免疫抑制の機序についての研究が挙げられます。また2001年に北海道において、マレック病を発症した野鳥(マガン)が世界で初めて見つかりました。そこで私たちは、様々な野鳥を対象とした疫学調査を行い、野鳥におけるMDVの分布状況を明らかにしました。それまでマレック病は鶏の疾病と考えられてきましたが、野鳥におけるMDV感染を考慮する契機となりました。

 

 マレック病はワクチンにより発症を予防することができます。しかし、野外では問題も発生しています。その問題点とはMDVの病原性の増強です。ワクチン接種にもかかわらずマレック病を発症する、“ワクチンブレーク”と呼ばれる事象が世界各国で報告されています。日本においても、マレック病の発生は散発的に認められています。そこで上述の研究に加えて、このような問題点を解消する基礎研究として、病原性の低いMDVと病原性の高いMDVの違いを探り、その違いが病態形成に与える影響を遺伝子組換えウイルスを用いて検討しています。そして日本に分布するMDVの性状についても、実際に野外の発症鶏よりウイルス分離を行い、そのウイルスの性状や病態について解析しています。さらには、ワクチンブレークの解消を目指し、より効果的に免疫応答を誘導できる新たなワクチンの開発にも取り組んでいます。